「空の記憶」Special 座談会

野沢香苗×松井五郎×森由里子×前田たかひろ

二胡奏者野沢香苗の1st Vocal Album「空の記憶」

ヴォーカリストとしての野沢香苗にスポットを当てたアルバムは、松井 五郎氏、森 由里子氏、前田 たかひろ氏、許 瑛子氏4名の作詞家に参加いただき完成しました。

それぞれの楽曲を作るにあたってのエピソードや野沢香苗について、また作詞について、野沢・松井氏・森氏・前田氏4名にて座談会を行いました。

スケジュールの都合で今回ご参加いただけなかった許瑛子氏からはコメントを頂いております。

■ いままでと違う挑戦

野沢 おかげさまで無事にアルバムが完成しました、ありがとうございます!

私は今まで二胡のアーティストとしてアルバムを作ってきましたが、必ず1曲は歌のある曲を入れてきました。ただ近作はコンセプチュアルなものになり、日本語の歌が選曲できなかったので、ライブで培った成果を形に残す意味でも、歌だけのアルバムを作りたいと、今作に至りました。今日は「空の記憶」に関わって頂いた作詞家をお招きして、野沢香苗はじめての歌ものアルバムについて、色々お話を伺いたいと思います。まず、たぶん早い時期から私に歌を強要してきた(笑)松井五郎さん。今回、ボーカルアルバムという事で、どう思われましたか?

 

松井 そうですね、そもそもインストゥルメンタルの人ですから、自分が接点を持つとすると歌もので作詞をさせて頂かないとですよね。ただ、僕は声に敏感なので、香苗ちゃんの声には反応してました。それで朗読をお願いしたり。ですから、歌うということも必然的でした。それに二胡の独特の世界観から生まれる歌には興味を惹かれてました。今回はいよいよかと。

 

野沢 今回の曲以外にも「螺旋の空」という曲も書いて頂きましたし、今回も収録した「心の糸」は松井さんプロデュースの「風のよせがき」という東日本大震災のチャリティアルバムで生まれた曲でした。

 

前田 僕今回唯一自薦だと思うんですけど、何年か前に森さんがやっているセイリオスのライブを観に行って。初めて歌聴いてすっごい歌良いなあって思って。この間何かの時に歌のアルバム出すようなことがあったら書かせてよ、って言ったらちょうどこの話が進んでいて、声かけてくれた。

 

野沢 そんなこと言って頂けるんだったら是非お願いしようと思って。

 私の二胡という楽器のイメージは、細くて物悲しくて、美しいけど、どことなく暗さのある印象でした。でも、香苗ちゃんの二胡はもっとスケール感があって、時には力強さもあって、それまでの私の二胡のイメージを変えたんです。その上、声もすごく綺麗で、二胡を弾きながら歌うというところに大きな特色がある。今回の河井英里さんの曲は、大切な曲で、香苗ちゃんに合うんじゃないかなと思って何年も前に聴いてもらっていて、今回レコーディングしようということに。

 

松井 そもそも僕たちは依頼があってから、歌う人を想定してスタートする事が多いと思うんですが、今回は二胡奏者という前提があるじゃないですか、もちろんボーカリストとして書くものの、そこは何か意識して書いたりしました?

 

前田 二胡に関しては香苗ちゃんともうひとり友人の二胡奏者くらいしか知らなくて、ほとんど聞いたことがなくて、どういうものなのかあまりよくわからなかったんです。二胡ってなんかこう頼りない感じがするじゃないですか、佇まいというか。でもそれであれだけの弦だけで凄い表現力があるから歌も歌ったらきっとうまいだろうなって思ってはいましたね。

 

 二胡という楽器自体がピアノやギターなどとは違ってちょっと癖のある民族楽器ですよね。

でも、それだけじゃないスケール感のある演奏をされるなといつも思っているので、そのあたりに注目して書かせていただきました。私が知っている普段の香苗ちゃんじゃなくて、ステージを見たり絵として見る演奏中の香苗ちゃんは、サラスヴァティ(弁天様)のイメージがあります。私自身もすごく弁天様に縁が深くて、そこがすごくシンクロしているという想いもあって。弁天様って音楽の神様で、二胡じゃなくて琵琶を持ってるんですけどね。


■ 野沢香苗は何者か?

 

松井 二胡アーティストというより女性としての内省的なイメージにフォーカスしたんですかね?

 

 私が書いたのは、どちらかというと非日常。打ち合わせの時、輪廻をテーマにしようって事になったので、いつもの等身大の香苗ちゃんではない、サラスヴァティ感と、あとそれからスケール感と無国籍感、エスニックな雰囲気ですね。

 

前田 今回は僕は詞先(詞を先に書いて、その後曲をつけること)だったんですけど、寺嶋民哉さんと組ませていただいていろんな話をしました。その中で、僕は香苗ちゃんの悪い人のイメージを捉えてみたいと。悪いって言うと変なんだけど、ご本人は柔らかいじゃないですか、で、二胡の感じも柔らかいし。だけど前回のBRAVEっていうアルバムで、あの楽器であんなに力強い、曲も凄く力強いし。だからイメージとしては熊本女のイメージなんですよ。

 

野沢  福井人なんですけどね(笑)

 

前田 なんかこう芯が強くって、ぶっとい強いっていうのが合うんじゃないかなぁって思って、その辺ちょっと書きたいって思ってるんですって言ってたら民哉さんが、「お前のせいで歌謡曲になっちゃった」って(笑)

 

野沢 ムード歌謡みたいになったーって(笑)

 

前田 でもそういうイメージはありました。

松井 音とはいえ僕は言語だと思うんですよ、ですからそこのところで香苗ちゃんの二胡はいつも歌っていて、その歌に対して言葉って本当に必要なのかってずっと思っていたんだけど、そういったところは、やっぱり歌を歌うってことと音の言語っていうのかな、そこら辺は自分の中でどういう風に解釈してるの? 

 

野沢 そうですね、結構やっぱりメロディを弾いてるときも言葉的な感覚って言うのはすごくあって、二胡って太極拳に近いところもあって呼吸と一緒になっているので、メロディの中での文節というか、そういうものがあったりして、曲を書いているときも自分の中でここは何か言葉がのっているっていうメロディもあったりして、まぁ言葉には出してないんですけど。だから今回はそれが明確に詞になってお客さんに届けられるので、よりもっと、自分の中の見えてる世界をお客さんにリアルに届けられるかなって。だから歌詞って凄く大事ななぁと思っていて。なので自分の中では色々な解釈をしてみたり、あと場合によってはあまり込めすぎない方が良いのかなと思うときもあって、無になって言葉を語感として出してる時もあったり。

でもそこにあまり差を持たないようにしていて、二胡を弾くときは歌ってるように、歌うときは二胡を弾いてるように流れを作りたいなって言う風に思っているんですけど。

 

松井 森さんは弁天様というすごく具体的なイメージがありましたけど、改めて歌手野沢香苗をどう捉えてます?

 

 現実の香苗ちゃんはわりと男っぽい人だと思ってるんですけど、でも、見た目がすごく綺麗だし色っぽいから、男の人はすぐファンになると思うんですね。ただ、私は女の人に訴えかけたい気持ちがあるんです。女性ファンって、憧れるか、共感を抱くか。感情移入をして投影する事もあるんですが、私はどちらかというと香苗ちゃんは憧れられる存在のイメージかなと。さっきのサラスヴァティのイメージもそうですが、どうしたら女性から見て素敵に思えるかを考えました。というのも女性って、自分を投影したりもするけど、時には色っぽい人に反発を感じたり違和感を感じる事もあるから。やっぱり同性に好かれて憧れられて欲しい。そういうイメージで描かせていただいたので、崑崙とかガリラヤとか地名を出して、時空を旅するような歌にしました。女性のリスナーが、その人が輪廻転生して誰かとめぐりあう運命を想像してもいいし、神秘的で大きなテーマの歌を聴いて、そこに浸って素敵だなーって思っていただけるような世界を描きたいと思って。

 

松井 前田君はそういうモチーフっていうか、なんかシンボル的なものって今回ありますか?悪の部分とか言ってたけど。(笑)

 

前田 ダークサイドですね。香苗ちゃんはもの凄くいい人というかすごく優しくてほんわかしてて、でもそれだけじゃないだろうなと、憶測で作ってるところがあって。二胡は弦なんだけどすごく言語的な感じがして、だからなんかそういう意味で僕が書いた歌詞に関しては、祈るようにって言葉があるんだけど、ダークサイドでいうと懺悔なんだよね。何を懺悔してるかは書いてないけど、どこかにそういうのがあるんではないかなって。あったら面白いなって。でもやっぱり二胡の音色のイメージはありましたね。二胡の音色と香苗ちゃんの声の音色はすごく似てるんで。


■ 歌手 野沢香苗

 

松井 例えばボーカリストによってはね、悪い意味じゃなくて詞の事考えないで歌う人もいるんですよ。理解するという事よりも語感的に歌っちゃう。今回作詞家を前にして理解しないで歌ったなんて言いにくいかもしれないけど、香苗ちゃんはどうでしたか?意味をわかった上で歌おうとしていたのか、実は歌ってはみたものの未だによくわからない、みたいなこともあったりするのかどうなのか。

 

野沢 作詞家さんの意図とあっているかどうかはさておき、自分の中では一応かみ砕いてこういう意味だろうと思っては歌っています。やっぱり二胡だけじゃなくって歌として歌詞をのせている以上、言葉のメッセージというのは大事かなと思うので、暑苦しくない程度には詞の意味を歌いかけているつもりではいます。

 

松井 やっぱり香苗ちゃんの世界って色が濃いから、ある意味今日来てる三人とも中心に寄って作ってるとは思うんですよ。それは悪い事じゃないけど、歌手としては、実はそこはコントラストをつけるのが難しいんじゃないかなと。曲によっての歌い分けは意識しました?

 

野沢 そうですね・・・多分今私の周りから見えているものに近い世界がここにあると思うので、どう歌っても野沢香苗にはなってしまう。そういう中で前田さんは違った部分もあるんじゃないかって書いてくださったり、森さんもテーマをはっきり持って書いてくださってる。そこはそれぞれの作品に自然に寄り添えばいいかなと。黒なら黒で(笑)

 

 黒いっていっても歌自体がそんなことないから。

 

前田 僕が言ってるのは黒よりも赤だからね。炎だから。


■ 作詞家の選択

 

松井 ところで数多いる作詞家の中から、なぜ今回の人たちになったの?

 

野沢 そうですね~前田さんは、正直な話をすると、香苗ちゃんの歌好きだって言ってくれたので(笑)それだったら一緒に何か作りたいと思ってお願いしたんです。でも最初色々考えたときに、前田さんは安室奈美恵さんやももクロさんとか、若いイメージがあったので、少し心配はしました。英語が入ってきたり、POPな感じがあって私に合うのかなぁって。でも前田さんにこういう企画があるとお話したら英語の歌詞以外ならなんでも書くよ!って言ってくれて。最初はテーマを決め込んでと思っていたんですけど、前田さんとは初めてなので前田さんが思う私を書いて頂こうと。

 

前田 わりとゆったりとしたテンポの曲が。だけどインストの曲が入ってたりして、別にベスト盤を聴いてる訳じゃないから、アルバムで聴くとしたら、これでいきなりアップテンポのロックンロールの曲があっても変だと思う。僕はこれをアルバムで聴いたときに、すごく統一感があっていいなぁって思って。

我々も曲を書く上で香苗ちゃんの声と、二胡があるっていうイメージがあるから。前のアルバムのBRAVEでは力強いところもあるけど、二胡っていうとやっぱりソフトなイメージ、で詞とか曲もそういうもので良かったと思います。僕もやっぱり松井さんがおっしゃってるように香苗ちゃん寄りというか、香苗ちゃんにこんなことさせようってのはあるけど、あまりにも冒険させすぎるとっていうのはありましたね。

でも、詞先で英語とかはまず書かないから!

 

野沢 勝手なイメージだったんですけどね(笑)

森さんに関しては、ここ3年くらいセイリオスっていうニューエイジ系のユニットに参加させていただいていてそのなかで、日本語とか、宇宙語とか、サンスクリット語とかいろんな言語で歌わせていただいていて、何か一曲自分のために書いていただきたいと思って森さんとフランキーさんにお願いをしたんですけど、森さんとは、何回か打ち合わせに伺って、こんなイメージというのを曲作りの方から始まって、曲は少しオリエンタルな感じでとなって、それから森さんと歌詞の打ち合わせをして、輪廻とか・・・

わりとそれまでの曲は自分の視点の曲が多かったので、少し遠くから見てるような歌があったらいいなと思って森さんにはお願いしていて、とってもスケールのある素敵な曲を書いていただいて。

 

松井 「終わりなき巡礼」は今回書き下ろし?

 

 そうですね。

 

松井 そういう意味では森さんと前田君がは新曲として書き下ろしだけど、僕は前に書いた作品だから、新しい事やろうにもやりようがなかった(笑)

 

前田 ホントはもっとどろどろした曲を書こうと思ったんだど、ちょっと話して、あ、そういうのはダメなんだなと思った(笑)

 

野沢 今回は確かに等身大なところではありますね。今日来られなかった許さんの「蛍」とう詞も、香苗ちゃんに合うんじゃないかと言って下さって、それでそれに私が曲を付けさせていただいて歌っているんですけど。だからなんとなく、きっといろんな人が思う私ってこんな感じなんだなって、このアルバムを通して知るという。

 

 でも、やっぱりそれぞれ、思っているイメージは違うんだなって思いました。私は妄想の世界なんですけど、さっきも言ったサラスヴァティの雰囲気を感じられるのもいいなとか、女性の目線からのイメージをすごく意識して、それと、やっぱり非日常的な世界が合う人だと感じたのでそれを描いた感じです。


■ これからの野沢香苗

野沢 今後もしまた機会があれば、私にこんなの歌わせたいというのはありますか?

 

松井 やっぱり二胡はどうしても入る訳じゃない?そこはネックだよね(笑)

 

野沢 そうですね(笑)それはマストかもしれない。今回二胡を弾いていない曲も2曲あるにはあるのですが。

 

松井 二胡をどう使っていくかっていうことはあると思う。例えば、今までやってきた美学があると思うんだけど、例えばピアソラみたいに同じタンゴでも概念を崩して新しいジャンルを築いていったように、二胡でも、これ二胡に聞こえないというものを作ったりとか。そうでないとどんな作詞家も二胡の強さに引っ張られるところはあるんじゃないかな。

 

前田 コンクリート感ないですよね、香苗ちゃんって。

 

松井 ただやっぱりそこはさ、僕らのいけないとこもあるのかもしれないけど(笑)ユーミンじゃないけど、最後の一行で実はコンクリートの部屋の一室だった、くらいのことがあってもいいわけじゃないですか。実はそういうバリエーションみたいなのは多分この後出てきてもいいかもしれない。でもさっきも言ったみたいに、その時に二胡の音っていうのは良くも悪くもやっぱりそこに引っ張られていくよね。

 

前田  なんでもできると思うんですよ、彼女歌上手いから。きっと二胡が全然合わないような曲とかも多分歌うには歌うんだと思うんですよ。ロックとかね。だけどなんか、歌い手さんでもないし、アルバムを出した時に手に取る人がなにを期待してるかってところも大事で、それは香苗ちゃんのイメージと、二胡っていうのがシンクロしてるってのがあるから、二胡縛りって事でその中で好き勝手やるっていうのもありかなと思う。僕は今回ちょっと手加減したっていうと変だけど、もうちょっとやりたい事は本当はあって。でもさっき由里子さんが言った、女の人に向けなきゃいけないっていうのがあって。

 男性はわりと優しいというか、見た目も綺麗で声も綺麗でっていう事で好きになってくれると思うんですけど、女性は、投影して感情移入するか、もしくは反発したり、場合によってはちょっと嫌いって思われる場合もあります。私、女性なのでよく知ってるんですけど。

 

前田   男性は敵に回らないですね。

 

 そうなんですよ。だけど香苗ちゃんって、誰にもない魅力があると思うんですよ。二胡を弾きながら歌う、その二胡が、これまでの中国楽器としての二胡を超えたダイナミックさや素晴らしさがあるから、今回はその魅力を引き出したいという気持ちがすごくありました。やっぱり女性は敵に回したくないし(笑)、女性が好きになってくれるかどうかですよね。

 

前田  そうですね、さっき男みたいだって言ってたけど、それってなかなかわからない

 

  全然わからないですよ!特にステージで見てると綺麗なだけでなく妖艶でしょ。ほんとは活動的で男っぽいところがある人だなんて、見てる人は知らないわけだから。

 

前田  だからって男っぽい詞にする必要はないし、例えば水前寺清子さんが歌うような気風のいい感じ。

 

松井  でも僕なんか天邪鬼だから、よし、2人がそうやって書くんだったら、僕は水前寺清子さんでいこうって思っちゃう。

 

  面白いですけどね、それも!

 

松井  だからそういうアンサンブルって、いろんな人が関わることで面白いとこだよね。

 

  そうですね。前田さんが英語を封じるなら私が英語でって。(一同笑)

 

松井  僕らが香苗ちゃんに似合うと思って着せてる服が、実はもっとアメリカの国旗みたいなTシャツとかを着た方が可愛いのにって思ってる人もいるかもしれない。それは僕らがこの距離の中でいいと思ってて、知っちゃってるところがある。全く香苗ちゃんのこと知らない人に発注したら、こんな世界あるんだって事もあるかもしれないし。

 

野沢  作詞家さんっていうのは、その人にあてて書いているからやっぱりその方の人物像っていうのは重要視するんですか?その人が言っているかのように書くんですか?

 

松井 前田くんなんか、探偵雇って素行調査して…(一同笑)

 

前田   僕、大きく分けるとふた通りで、その人に寄って書くのと、その人は普通やってないんだけど、こういうのやったら面白いんじゃないかなって、例えば今回だったら香苗ちゃんはもっと火の女みたいな、ドロドロしたのとかやったら面白いんじゃないかな、とかをプレゼンテーションする。こっちはやりすぎると使われない、みたいな(笑)

 

松井  でもそれもわからないんだよね、曲とか企画とかだったり、時代であったり。それこそ企画2曲出して、どうかなっていう方がカップリングになっていたりするけど、でもそっちの方が人気になることもあるから。それってやっぱり作家の読みも必ずしも正解じゃない。

 

前田 以前、木根尚登さんに書かせてもらった時に、いい人って言われてる人には悪いの書きたくなっちゃって、ダブル不倫の詞を書いたんですよ(笑)

木根さんが、これどうすんの?女房になんて言うんだよっていうから、木根さんは前田のせいのすればいいけど僕こそどうすりゃいいんですかって(笑)

で、木根さんは実際凄くいい人なんですけど、ライブでは必ず作詞家前田たかひろからボーカリスト木根尚登に来た挑戦状の詞を歌いますって言って歌ってくれてるらしい。で割とそれが評判がいいらしいんですよ、ファンの人の間で。そういう風に、歌う方はちょっとって思っても作詞家のせいにしちゃっていいからってところもちょっとある。

 

 逆に私はある女性に、彼がいるのに他の人に恋をするというような歌詞を書いたらファンがめちゃくちゃ怒っちゃって。その人のイメージじゃないって。わざと壊したいと思って彼女歌ってくれたんですけど、すごいファンが怒っちゃってあの歌は封印、ライブでは歌えない、みたいになったことがありましたね。だからそのへん難しいんですけど

 

前田 女の人だとそうなっちゃうかもしれないですね。

 

 基本的にはいつも、歌う人の魅力を引き出せるのはどんなテーマでどんな雰囲気かっていうことは考えて書いています。それは私が思ったことだから、他の人がみんなそう思うかどうかはわかりませんけど、少なくともそういう内容を提案させていただくようにはしてるんですけど。

 

前田 ですよね。でもやりすぎですとか、余計なお世話ですって思われちゃうこともある。

 


■ 空の記憶 それぞれの記憶

松井 ちょっと話戻っちゃうかもしれないけど、どう書かないかっていうのがあるじゃないですか。作詞家って書く仕事だと思ってるかもしれないけど実は書かない仕事でもあるんですよ。書いていったら際限なく書けちゃうわけだし、詞先なんかであれば自分で決断しなきゃいけない。でもそうなってきた時にやっぱりその二胡であるとか、もともとその曲が持ってるムードであるとか香苗ちゃんの世界観ってところで、書かなくていいことって意外と普通の曲よりも多いかもしれないっていう気もちょっとしていてね。行間とかそこら辺は意識はします?

 

森 やっぱり聴いた方に想像してもらう余地はあったほうがいいと思います。じゃあここでは、ストーリーになってるとしたら、ここは実は書いてないけど何かこう想像を掻き立てるもの、Aという人とBという人が想像してるものは違うものなんだけどAという人とBという人の世界の中で想像をかき立てるような行間は必要かなと思います。香苗ちゃんに限らずですけど、二胡ってすごく語ってる楽器だからそのことを生かすとしたらそういう部分は絶対必要かなと思いますね。

 

松井 前田くんはこれ詞先だったんだもんね。

 

前田 はい。詞先で書いたんだけど、民哉さんが「前田~これ5分超えちゃうんだけどどう思うこれ?」って。どう思うって、知らんよって(笑)なんかもちろん詞先でも全然いいと思うんですけど、ちょっと思ったのは、詞を書くことだけで考えると、ここで二胡がこういうふうに入るよとかっていうのも、あるのをわかった上で最後言葉をつけるっていう作業もちょっと面白いかなと思った。香苗ちゃんのに限っては、ここでこう二胡が入ってこういうアレンジでっていうのがあってから、じゃあ詞を付けて、っていうのも面白いかなと。今回は今回ですごく面白かったけど。

 

野沢 確かに、AメロBメロでサビがあって、間奏があってまたとかっていうのが限らないことがあって、例えば1番はサビまであって、2番はAの後に二胡のソロみたいなのがあったりするとAとBの間にそれがあることで何か世界が変わることもありますね。

 

 だからその二胡を聴いてる時に例えばこのテーマの空であるとか風であるとかそういうものをリスナーの方が感じてくれるような、そういう楽器だと思うんですよね。だからそれを活かして。

 

野沢 いわゆる間奏っていうのじゃなくて私が弾いてるってことで意味を持つじゃないですか。

 

松井 そこは大きいよね。だから一番最初に言ったようにそこで語ってるっていうのは間違いないし、香苗ちゃん自身も例えばこれがライブであれば当然歌った後にもし間奏があればそこは弾くわけだよね。そうするとそこを今まではずっとそこは二胡だけで弾いてるものが、ある部分が歌になっているわけでそこの抑揚とかそういうものはきっとすごく意識するわけでしょ。

 

前田 歌詞は言葉で、セリフだとすると二胡は叫びだったり本音だったり。なんかそういうのができるともっと面白いかもしれないね。

 

野沢 言葉に出してない思いみたいな表現はできるかもしれない。

 

松井 まだライブではそんなにやってないだろうから。多分それやってまた新たな発見があるかもしれないし。

 

 世界が広がることもあるかもしれないし、すごく楽しみにしています。

 

松井 このタイトルの空の記憶って香苗ちゃんが考えたんでしょ?

 

野沢 はい、曲を並べてみた時に、いろんな人生を考えてみたんですね。曲の中に色々物語があって、その中に共通して見えてくるのが空だなあと思ったんです。そこから空の何にしようかって色々考えていた時に「記憶」の断片があるような感じでやったらどうだろうと思って。今回歌が7曲でインストが3曲なんですが、朝もあれば夜もあって、空越しの誰かを思っていることもあったり。いろんな空の色があるような。

 


■ 最後に

 

 野沢 最後に、このアルバムを聴いてくださる方に一言ずつお願いできますか?

 

松井 歌モノとしては初めてのアルバムになるわけで、これからの野沢香苗がどんな風になっていくのか期待させる一枚になっているんじゃないかと。

 

 素敵な声のボーカルと、二胡のコラボレーションが唯一無二な野沢香苗ちゃんの魅力をいっぱい詰め込んだ一枚になっているんじゃないかと思いますので、唯一無二な野沢香苗ちゃんを感じてもらえればと思います。

 

前田 何かしながらじゃなくて、最初の一回は何にもしないで聴くだけに専念して、歌詞カードも見なくてもいいので、寝っ転がりながら聞くとか。作業しながらとか運転しながらじゃなく聴いて欲しいですね、このアルバムは。

 

野沢 いろいろな人に聴いていただけるように頑張っていきますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします!

 

ありがとうございました!


許瑛子さんからコメントをいただきました。

ニューアルバム発売の野沢香苗さんへのコメント

 

初めて香苗ちゃんの演奏を聞いた時、川が流れるように自然で、心が揺さぶられました。そして、まるで歌を歌っているような二胡だと感じたのを覚えています。

香苗ちゃんのオリジナル曲でした。

二胡というのは山や月や馬などの自然や動物を音で表現しているものが多いので、二胡奏者の香苗ちゃんが歌を歌ったら、二胡を奏でるようになるのではないかと思っていました。

香苗ちゃんには景色を伝える力があり、自然を歌ったら絵が浮かぶのではないかと思ったのです。

それで蛍の詞をお見せしましたら曲をつけたいとすぐに言ってくださいました。

蛍は詞先です。

私は二胡が大好きですから、香苗ちゃんの歌もののメロディにも大変興味があり、期待でいっぱいでした。

蛍は出だしから風景の歌です。

ご承知の通り、蛍という昆虫は水の美しいとこでしか生きられないといいます。とても神秘的な昆虫です。

香苗ちゃんは現実と幻想的の両方を歌える人だと思います。

これは私見ですが、私は彼女を忍耐強いと思っています。意思のはっきりした芯の強さを持っているはずなのに、とてもソフトで優しく、人と接している香苗ちゃんを見て、素敵だなと思う場面が多々あります。

命というドキッとする言葉を使っても、香苗ちゃんならその包容力で歌えると思いました。

それは香苗ちゃんから、小さな光を放ちながら夕闇を舞う蛍の幻想的なイメージと命を燃やして大切なものを照らす、という二つをイメージできたからです。

儚くて力強い蛍の歌詞は香苗ちゃんの曲がついてから、完成しました。

二胡を弾きながら歌うのはとても難しいのです。ライブではここは歌も二胡も聴きたいと思うところに、歌だけ二胡だけと制約が出来てしまいます。でも香苗ちゃんの歌は、難しい弾き語りをとても心地よく聴かせてくれます。

今回、ずっと蛍をライブで弾いてくださっていたピアニストの古垣未来さんのアレンジです。二胡に寄り添ってきた古垣さんらしいピアノが香苗ちゃんの歌に寄り添って、心地よいと思いました。

歌詞のない二胡だけのメロディの蛍も聴いてみたいです。息継ぎのない風景を見てみたいと思います。その時、山々や川、蛍の舞う風景が思い浮かぶはず。でも感情は言葉の方が伝わりやすいですよね。香苗ちゃんの声あっての蛍です。

 二胡、歌を歌うように、歌、二胡を奏でるように、それが香苗ちゃんの魅力なのだと思います。

 

                                2018年11月13日   許 瑛子


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